請求書処理をAIで自動化する前に、まず確かめたい3つのこと
・読了目安 約9分
監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣
この記事の要点
- 電子帳簿保存法で義務なのは電子取引データの保存で、専用システムやAIの導入は義務ではない。改ざん防止・備付け・検索の3ルールは無料の手段でも満たせる
- 改ざん防止は事務処理規程、検索要件は索引簿かファイル名の規則で満たせ、基準期間の売上高が5,000万円以下なら検索要件そのものが不要になる
- AIが担えるのは読み取りと仕訳候補の作成まで。読み取った登録番号の有効性は国税庁のWeb-APIで機械的に照合でき、確認と修正は人の仕事として残る
月末になると、経理担当の方の机にメールが積み上がります。取引先から届いたPDFの請求書。ネットバンキングの明細。ECサイトで買った備品の領収書。印刷してファイルに綴じ、会計ソフトに手で打ち込む。担当が1名の会社なら、この作業はその方1人に集中します。
「AIで自動化できないか」と考えるのは自然なことです。ただ、そこにいきなり向かうと、たいてい遠回りになります。
この記事の結論
先に3つ申し上げます。
- 法律が義務づけているのは「消さずにデータのまま保存する」ことだけです。 AIも専用システムも要りません
- その保存は、条件によっては無料の手段で満たせます。 特に売上規模の小さい会社ほど、要件が緩みます
- AIが担えるのは「読み取って候補を出す」ところまでです。 確認と修正は人の仕事として残ります
順に見ていきます。
まず、法律は何を求めているのか
電子帳簿保存法には3つの区分があります。このうち**「電子取引データ保存」だけが義務**で、「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」は希望者のみが対象です1。
電子取引にあたるのは、次のようなやりとりです2。
- 取引先からメールで受け取ったPDFの請求書(添付ファイルを含む)
- ECサイトで購入した商品の請求書や領収書
- インターネット上でのみ確認できるクレジットカード明細、ネットバンキングの明細
つまり、取引先からメールでPDFの請求書を1通でも受け取っていれば対象です。「うちはデジタル化していないから関係ない」とはなりません。
求められる原則のルールは3つです3。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 改ざん防止の措置 | タイムスタンプ、履歴が残るシステム、または事務処理規程のいずれか |
| 見られる状態にする | ディスプレイやプリンタ等を備え付ける |
| 検索できる | 日付・金額・取引先の3つで検索できること。加えて、範囲指定や組み合わせの検索か、税務調査でのダウンロードの求めに応じられること |
無料でできる線は、思ったより先にあります
ここが一番お伝えしたいところです。
改ざん防止は、事務処理規程を作れば専用システムなしで満たせます。 国税庁自身が「専用のシステムを導入しない方法もあります」と案内し、規程のサンプルを公開しています2。
検索要件も、表計算ソフトで足ります。 連番・日付・金額・取引先・備考を並べた索引簿を作る方法と、ファイル名を「日付_金額_取引先」の規則で付けてフォルダにまとめる方法が示されています3。
さらに、基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下なら、検索要件そのものが不要になります1。税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられるようにしておけば足ります。
原則のルールに間に合わない場合の猶予措置もあります。事前の届出は不要で、「人手不足」「システム整備の資金不足」も相当の理由として認められると案内されています3。ただし条件は2つあります。相当の理由があることに加えて、税務調査の際に、データのダウンロードと、印刷した書面の提示・提出の両方に応じられるようにしておく必要があります3。
紙で届いた請求書はどうするか
紙の請求書をスキャンして保存すれば、原本を廃棄できます4。開始に特別な手続きは原則要りません。
ただし要件は細かめです。作成・受領からおおむね7営業日以内の入力、解像度200dpi相当以上、24ビットカラーなどが定められています4。事務処理規程を定めれば、最長2か月の業務処理サイクルを使う方式も選べます。
中小企業は、バックオフィスからAIを使い始めています
2026年版中小企業白書が省力化投資について中小企業に尋ねた調査(回答5,645社)では、AI活用に取り組んだと答えた企業は30.3%です5。そのうちバックオフィス部門で活用している企業が73.4%と最も高くなっています5。中小企業基盤整備機構の調査でも、業務分野別では総務・管理部門が68.3%で最多です6。
活用の目的は「業務時間の節減」が84.5%で1位でした5。
一方で、AIを活用しない理由の1位は「活用する業務がイメージできていない」で63.4%です5。「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらないと答えた企業は83.3%にのぼります6。
やる会社は総務・経理などの管理部門から始めていて、やらない会社は入口が見えていない。この差が現状です。
AIに任せられること、任せられないこと
任せられること
会計ソフト各社は、受け取った請求書や領収書を読み取って仕訳の候補を作る機能を提供しています。freee会計はOCRによる自動解析を行うと説明しています7。マネーフォワード クラウド会計は「仕訳候補」を自動作成し、人が確認・登録する仕組みだと明記しています8。
特に確実なのが登録番号の照合です。適格請求書には登録番号の記載が必要ですが9、その番号が国税庁に登録され有効かどうかは、公表システムのWeb-APIで機械的に確認できます10。利用は無料で、1リクエストで最大10件を照会できます。マネーフォワード クラウド債務支払は、読み取った登録番号の有効性を自動判定すると説明しています11。
ここはAIの推測ではなく国税庁のデータベースとの照合です。読み取った番号が正しければ、登録の有無は機械的に確かめられます。
任せられないこと
読み取りは、紙の状態に左右されます。弥生はレシート・領収書の取り込みについて、読み取りが難しい条件を自ら列挙しています。文字が薄い、シワがある、柄が入っている、特殊なレイアウトである、といったものです12。取引先名を電話番号の照合で取得するため、番号が読めないと空欄になるという説明もあります12。
そして制度上、仕入税額控除のためには帳簿と請求書等の両方の保存が必要で、その責任は事業者に残ります13。読み取った結果が正しいかを確かめる工程は外せません。
マネーフォワードの説明も「仕訳候補を自動作成」「確認・修正すれば完了」です811。弥生も、読み取った日付・取引先・金額を確認画面で直す前提で案内しています12。「AIが勝手に経理をやってくれる」という理解で導入すると、期待とずれます。
なお、読み取り精度を数値で示した公式の情報は、今回の調査では見つかりませんでした。 「精度99%」といった数字を見かけたら、出どころを確かめることをおすすめします。
費用と、使える制度
請求書を「出す」側
弥生のMisocaは、月10通まで無料で請求書を作成できます14。有料のプラン15は次年度以降が年8,800円(税抜)で、2026年9月3日時点では初年度1年間が無料になるキャンペーン中です14。
請求書を「受け取る」側
こちらは金額をお伝えできません。バクラク請求書受取とマネーフォワード クラウド債務支払は、公式ページに料金の記載がありません(2026年9月3日時点)15。導入を検討する場合は、個別に問い合わせる必要があります。
補助金
IT導入補助金は、令和7年度補正予算事業から「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わりました16。
インボイス枠(インボイス対応類型)は、補助額50万円以下の部分の補助率が3/4、小規模事業者は4/5です16。50万円超〜350万円の部分は2/3です。350万円まで申請できるのは、会計・受発注・決済のうち2機能以上を持つツールの場合です16。クラウドの利用料は最大2年分が対象になります。
2026年9月3日時点で公表されている5次締切は、2026年9月29日(火)17時です17。締切は変わりますので、申請の際は公式サイトで最新の日程をご確認ください。
申請には、事務局に登録されたIT導入支援事業者のサポートが必要です16。自社だけでは申請できない仕組みになっています。
導入時につまずきやすいところ
白書は、ITツール活用の効果を高めるために有効だった取組を挙げています。1位が「現場からの意見収集」で50.3%、次いで「段階的な導入」36.1%、「従業員への研修・勉強会」32.9%です5。
経理担当が1名の会社では、この「現場」がその方1人です。使う本人が納得していない仕組みは続きません。 経営者が決めて導入するのではなく、先に困りごとを聞くところから始めるのが近道です。
もう一点、少額特例に触れておきます。税込1万円未満の課税仕入れは、一定規模以下の事業者であればインボイスの保存が不要です18。ただし令和11年9月30日までの時限措置です。これを前提に運用を組むと、期限後に作り直しになります。
まとめと、明日できること
- メールで届く請求書がどこに何件あるかを数える。 取引先、ECサイト、ネットバンキング。まずは全体像を把握します
- 国税庁のサンプルを使って事務処理規程を作る。 改ざん防止の要件はこれで満たせます2
- 2年前の売上高を確認する。 5,000万円以下なら、検索要件は不要です1
- 索引簿かファイル名の規則を決めて、保存場所を1か所にする。 ここまでは追加費用なしで進みます
- そのうえで、手で打ち込んでいる時間が気になるなら会計ソフトを検討する。 補助金の対象になる可能性があります16
事務処理規程の中身、検索要件が不要になるかの判定、猶予措置や少額特例の当てはめは、いずれも税務上の判断です。運用を決める前に、顧問税理士か所轄の税務署に確認してください。
順番が大事です。保存の型が決まっていない状態でツールを入れると、ツールの外にあるデータが取り残されます。
AIは、決まった型を速く回すための道具です。型そのものを作ってはくれません。
出典
国税庁「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」(令和8年6月)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩
国税庁「電子取引データ保存要件チェックシート」(令和6年11月)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩
国税庁「電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について」(令和6年11月)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩ ↩
国税庁「電子帳簿保存法 はじめませんか、書類のスキャナ保存」(令和5年7月、令和6年1月以降用)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩
中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)調査結果のポイント」(2026年9月3日 参照) ↩ ↩
freee会計 公式サイト(2026年9月3日 参照) ↩
マネーフォワード クラウド会計 公式サイト(2026年9月3日 参照) ↩ ↩
国税庁 タックスアンサー No.6625 適格請求書等の記載事項(2025年4月1日 公開)(2026年9月3日 参照) ↩
国税庁「適格請求書発行事業者公表システムWeb-API機能」(2026年9月3日 参照) ↩
マネーフォワード クラウド債務支払 公式サイト(2026年9月3日 参照) ↩ ↩
弥生株式会社 サポート情報「スキャンデータ取込でレシート・領収書を取り込む場合の注意点」(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩
国税庁 タックスアンサー No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存(2025年4月1日 公開)(2026年9月3日 参照) ↩
弥生株式会社 Misoca 料金ページ(2026年9月3日 参照) ↩ ↩
バクラク請求書受取 公式サイト(2026年9月3日 参照) ↩
中小企業庁「中小企業デジタル化・AI導入支援事業『デジタル化・AI導入補助金2026』の概要」(令和8年4月)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩ ↩ ↩
デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト「インボイス枠(インボイス対応類型)」(2026年9月3日 参照) ↩
国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要」(2026年9月3日 参照) ↩
出典
本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。
- [1] 国税庁「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」(令和8年6月) www.nta.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [2] 国税庁「電子取引データ保存要件チェックシート」(令和6年11月) www.nta.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [3] 国税庁「電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について」(令和6年11月) www.nta.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [4] 国税庁「電子帳簿保存法 はじめませんか、書類のスキャナ保存」(令和5年7月、令和6年1月以降用) www.nta.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [5] 国税庁 タックスアンサー No.6625 適格請求書等の記載事項 www.nta.go.jp ・2025年4月1日 公開 ・2026年9月3日 参照
- [6] 国税庁 タックスアンサー No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存 www.nta.go.jp ・2025年4月1日 公開 ・2026年9月3日 参照
- [7] 国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要」 www.nta.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [8] 国税庁「適格請求書発行事業者公表システムWeb-API機能」 www.invoice-kohyo.nta.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [9] 2026年版中小企業白書 第2部第2章第2節 www.chusho.meti.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [10] 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)調査結果のポイント」 www.smrj.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [11] 弥生株式会社 サポート情報「スキャンデータ取込でレシート・領収書を取り込む場合の注意点」 support.yayoi-kk.co.jp ・2026年9月3日 参照
- [12] マネーフォワード クラウド会計 公式サイト biz.moneyforward.com ・2026年9月3日 参照
- [13] マネーフォワード クラウド債務支払 公式サイト biz.moneyforward.com ・2026年9月3日 参照
- [14] 弥生株式会社 Misoca 料金ページ www.yayoi-kk.co.jp ・2026年9月3日 参照
- [15] 中小企業庁「中小企業デジタル化・AI導入支援事業『デジタル化・AI導入補助金2026』の概要」(令和8年4月) www.chusho.meti.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [16] デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト「インボイス枠(インボイス対応類型)」 it-shien.smrj.go.jp ・2026年9月3日 参照
- [17] freee会計 公式サイト www.freee.co.jp ・2026年9月3日 参照
- [18] バクラク請求書受取 公式サイト bakuraku.jp ・2026年9月3日 参照
よくある質問
Q. 電子帳簿保存法の対応に、専用のシステムやAIは必要ですか
必須ではありません。義務なのは電子取引データを消さずにデータのまま保存することで、改ざん防止は国税庁のサンプルを使った事務処理規程、検索要件は表計算ソフトの索引簿かファイル名の規則で満たせます。国税庁自身が専用システムを導入しない方法を案内しています。
Q. 売上規模が小さい会社でも検索要件を満たす必要がありますか
基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下であれば、検索要件そのものが不要になります。税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられるようにしておけば足ります。
Q. AIやOCRに請求書処理をどこまで任せられますか
任せられるのは読み取りと仕訳候補の作成、登録番号の有効性の照合までです。マネーフォワードは「仕訳候補を自動作成し、人が確認・修正する」と説明し、弥生も確認画面で直す前提で案内しており、仕入税額控除のための帳簿と請求書等の保存責任は事業者に残ります。読み取り精度を数値で示した公式情報は、今回の調査では見つかっていません。