管理職に育成の時間がない会社が、まず減らせること
・読了目安 約7分
監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣
この記事の要点
- 能力開発や人材育成に問題があるとする中小企業の事業所は79.9%で、うち「人材育成を行う時間がない」と答えた事業所は47.4%です
- 人材育成の問題点で最も回答が多いのは「指導する人材が不足している」の59.5%で、時間の不足はそれに次ぐ規模です
- 管理職が口頭で繰り返し教えている内容を録音・文字起こしすれば、対話AIで新人向け手順書の下書きが作れます
- Nottaは無料プランで月120分(1回3分まで)、AutoMemoは無料のお試しプランで月1時間まで文字起こしができます
「同じことを、また一から説明しないといけないんです」。備後地域の中小企業の経営者から、そんな声を聞くことがあります。管理職が新人に仕事を教える時間は、たいてい本人の業務の合間に生まれます。教える内容が増えるほど、管理職自身の仕事が後ろにずれていきます。この記事では、その「教える時間」をなくすのではなく、別の時間に置き換える方法を紹介します。
この記事の結論
先に3点お伝えします。
- 中小企業庁の白書は、人材育成の取組を増やしていない事業者が感じている問題点として「育成に充てる時間的余裕がない」「指導する人材が足りない」を上位に挙げています1。
- 厚生労働省の調査でも、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所は79.9%にのぼり、その内訳は「指導する人材が不足している」59.5%が最も高く、「人材を育成しても辞めてしまう」54.7%、「人材育成を行う時間がない」47.4%と続きます2。
- この記事では、管理職が口頭で繰り返し教えている内容を録音し、文字起こしと対話AIで手順書の下書きに変えることで、「教える時間」を「新人が読んだ後に疑問点だけ確認する時間」に置き換える方法を提案します。
順に見ていきます。
私の見方: 最初は範囲の狭い仕事から始めた方が、成功しやすいと思っています。管理職が教えている内容をすべて仕組み化しようとせず、まずは同じ説明を繰り返している1つの業務から試してみることをおすすめします。
管理職の「教える時間」が足りない、という実態
中小企業庁の2025年版白書は、5年前と比べて人材育成の取組を増やしていない事業者に対し、育成の取組で感じている問題点を尋ねた調査を紹介しています。「育成に充てる時間的余裕がない」「指導する人材が足りない」と回答する割合が高く、育成に充てるリソース(時間・人)が不足している様子がうかがえる、と分析しています1。
厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査でも、同じ構造が見えます。能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は79.9%で、3年移動平均でみても近年は7割台後半から8割近くで推移し、高止まりしています2。その問題点の内訳を複数回答で尋ねると、「指導する人材が不足している」が59.5%で最も高く、「人材を育成しても辞めてしまう」54.7%、「人材育成を行う時間がない」47.4%と続きます2。これは並列の複数回答結果であり、白書もこれらを段階的な関係としては説明していません。ただ、「指導する人材の不足」と「育成の時間不足」が、どちらも上位に挙がっている事業所側の課題であることは共通しています。
相談を受ける人がいても、時間がなければ同じ
同じ調査には、キャリアコンサルティングの相談窓口についての結果もあります。キャリアコンサルティングを行うしくみを導入している事業所のうち、正社員・正社員以外それぞれ69.2%・68.0%が「問題がある」と回答し、その内訳で「相談を受けることのできる者はいるが、その者の他の業務が多忙のため、キャリアに関する相談を受ける時間がない」を挙げた事業所は正社員24.5%、正社員以外21.2%でした2。
担当者や相談窓口を配置しても、その人の他の業務が忙しければ、相談や指導に時間を割けません。これは育成の問題点として挙がった「時間がない」という課題と同じ構造です。管理職に教える役割を担わせるだけでは、時間の問題は解決しないということになります。
手順: 口頭で教えている内容を、録音から手順書の下書きに変える
ここから、管理職が口頭で繰り返し教えている内容を、録音・文字起こし・対話AIの3つの手順で下書きに変える方法を紹介します。
まず、管理職が新人に口頭で説明している場面を、スマートフォンの録音機能などで録音します。次に、その録音を文字起こしサービスに読み込ませます。Nottaは無料プランで文字起こしができますが、月120分まで、かつ1回の録音は3分までという条件があります3。AutoMemoは無料のお試しプランで月1時間まで文字起こしができます4。短い説明を何度かに分けて録音する使い方に向いています。
文字起こしができたら、その文章をChatGPTなどの対話AIに貼り、「この内容を新人向けの手順書として、箇条書きでまとめてください」のように指示すると下書きができます。ChatGPTはメールや案内文の下書き、長い資料の要約までひと通りこなす対話AIとして案内されており、無料プランがあります5。
録音には、取引先名や社内の内部情報が含まれることがあります。文字起こしサービスや対話AIに貼り付ける前に、それぞれの利用規約・プライバシーポリシーを確認し、可能であれば固有名詞を仮名や記号に置き換えてください。この点は生成AIに何を入力していいか、中小企業が守るべき情報の扱い方でも扱っています。
なお、この「録音・文字起こし・対話AIでの下書き」という組み合わせそのものの効果を検証した公的な調査は見当たりませんでした。ここで紹介しているのは、ここまでの実態を踏まえてAisurumonが提案する一つのやり方です。
現場で見てきたこと
私が関わった会社では、作った後に面倒を見る人が決まっていなかったことがありました。社内資料が古くなったり、業務のルールが変わったりすると、AIが参照する情報も更新しないといけません。誰が運用するのかを決めずに導入すると、半年後には誰も使わなくなっている、ということが起こります。導入の時点で「この仕組みを誰が育てるか」まで考えておくのが大事だと思っています。
手順書の下書きも同じです。1回作って終わりにすると、業務のやり方が変わったときに古い内容のまま新人に渡されてしまいます。誰が、どのくらいの頻度で録音と下書きを更新するかを、最初に決めておく必要があります。
導入時につまずきやすいところ
1つ目は、文字起こしの無料枠に限りがあることです。 Nottaは1回の録音が3分までという制限があり、AutoMemoは月1時間までという上限があります34。長い説明を一度に録音するのではなく、短く区切って録音する運用に合わせる必要があります。
2つ目は、対話AIが作った下書きが、そのまま完成版になるとは限らないことです。 対話AIは会社ごとの細かいルールや例外まで理解しているわけではありません。下書きができた段階で、管理職が内容を確認する工程を残してください。
3つ目は、新人が下書きを読んだだけで終わってしまうことです。 「教える時間」を「読んだ後に確認する時間」に置き換える、という点がこの方法の要です。読んだ後に短くても確認の時間を取らなければ、教える時間そのものがなくなっただけになってしまいます。
録音・文字起こし・下書きの確認をいつ誰が行うかを就業時間の一部として制度化する場合は、労働時間の扱いに関わるため、社会保険労務士など専門家に確認してから進めることをおすすめします。
まとめと、明日できること
| 何を | どのツールで | 所要時間の目安 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 次に新人へ口頭で説明する内容を録音する | スマートフォンの録音機能など(すでにお使いのもの) | すぐ | — |
| 録音を文字起こしする | Notta・AutoMemo(いずれも無料プランあり) | すぐ〜半日 | 34 |
| 文字起こしを対話AIに読み込ませ、手順書の下書きを作らせる | ChatGPT(無料プランあり) | すぐ | 5 |
| 下書きを新人に渡し、読んだ後の疑問点だけ管理職に確認してもらう | 上の下書きをそのまま使う(新しいツールは要らない) | すぐ | — |
新人育成の仕組みそのものを整える考え方は、新人育成が「教える人」次第にならない仕組みの作り方でも扱っています。まずはここまでを、今使っているスマートフォンと無料の文字起こし・対話AIだけで試してみてください。
出典
中小企業庁 2025年版中小企業白書 第2部第1章第4節「人材戦略」(第2-1-57図)(2025年4月25日 公開)(2026年9月21日 参照) ↩ ↩
厚生労働省 令和6年度「能力開発基本調査」結果の概要(2026年6月27日 公開)(2026年9月21日 参照) ↩ ↩ ↩ ↩
Notta 公式サイト 料金プラン(2026年9月21日 参照) ↩ ↩ ↩
AutoMemo 公式サイト 文字起こし料金プラン(2026年9月21日 参照) ↩ ↩ ↩
Aisurumon 外部ツールカタログ(chatgpt。一次情報: App Store ChatGPTアプリページ)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩
出典
本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。
- [1] 中小企業庁 2025年版中小企業白書 第2部第1章第4節「人材戦略」(第2-1-57図) www.chusho.meti.go.jp ・2025年4月25日 公開 ・2026年9月21日 参照
- [2] 厚生労働省 令和6年度「能力開発基本調査」結果の概要 www.mhlw.go.jp ・2026年6月27日 公開 ・2026年9月21日 参照
- [3] Notta 公式サイト 料金プラン www.notta.ai ・2026年9月21日 参照
- [4] AutoMemo 公式サイト 文字起こし料金プラン automemo.com ・2026年9月21日 参照
- [5] Aisurumon 外部ツールカタログ(chatgpt。一次情報: App Store ChatGPTアプリページ) apps.apple.com ・2026年9月3日 参照
よくある質問
Q. 管理職の育成時間が足りないのは、うちの会社だけの問題ですか
厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所が79.9%を占め、その内訳で「人材育成を行う時間がない」と答えた事業所は47.4%でした。中小企業庁の白書でも、育成の取組を増やしていない事業者の問題点として「育成に充てる時間的余裕がない」が上位に挙がっています。
Q. 録音した内容を文字起こしAIに入れても大丈夫ですか
録音には取引先名や社内の内部情報が含まれることがあるため、利用するサービスの利用規約・プライバシーポリシーを確認し、可能であれば固有名詞を伏せてから入力することをおすすめします。Notta・AutoMemoにはいずれも無料プランがありますが、文字起こしできる分数には上限があります。
Q. 文字起こしと対話AIだけで、教える時間はなくなりますか
この記事で紹介する方法は、教える時間をゼロにするのではなく、新人が下書きを読んだ後に疑問点だけ確認する時間に置き換える提案です。この組み合わせの効果そのものを検証した公的な調査は見当たらず、Aisurumonが提案する一つのやり方です。
この記事の監修者
末吉 孝臣
代表取締役・株式会社Omit
20年ほど Web や業務システムの開発と企業の DX 支援に携わり、現在は広島県福山市で株式会社Omit を経営。専任の IT 担当者がいない中小企業を中心に、現場の仕事を見ながら AI 導入や業務改善を現実的な形に落とし込む仕事をしています。
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