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人事・労務

新人育成が「教える人」次第にならない仕組みの作り方

・読了目安 約5分

監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣

この記事の要点

  • 計画的なOJTを実施している事業所は64.7%ですが、正社員に対する実施率でみると従業員30〜49人の企業では46.0%と、規模が小さいほど実施率は下がります
  • 人材育成に問題があるとする事業所は79.9%で、内訳は「指導する人材が不足」「育成しても辞めてしまう」「時間がない」の順に多くなっています
  • 育成の方針を文書にした「事業内職業能力開発計画」を作成している企業は全体の2割程度で、企業規模が小さいほど作成率は低くなっています
  • 計画的なOJTを実施している事業所のうち、新入社員を対象にした割合は54.7%と、他の職層より高くなっています
小さな工場の作業スペースで先輩社員が新人に手元の作業を教えている後ろ姿

新人が入ると、教える担当は「そのとき手が空いている先輩」になりがちです。教える範囲も教え方も、担当した先輩によって変わります。新人は「前に聞いた話と違う」と戸惑い、先輩は「前にも教えたはずなのに」とすれ違う。そんな場面に心当たりがあるなら、必要なのは大掛かりな研修制度ではなく、教える内容を書き出した小さな仕組みかもしれません。

この記事の結論

厚生労働省の調査では、新人向けの計画的なOJTを実施している事業所は6割を超える一方、従業員数が少ない企業ほど実施率は下がります1。育成の方針を1枚の文書にまとめている企業も、全体では2割程度にとどまります1。新人が育つかどうかを「教える先輩の力量」に任せず、誰が教えても同じ内容が伝わる仕組みを、小さくてもいいので先に作ることが、規模の小さい会社ほど効きます。

「教える人によって内容が違う」は数字にも表れている

厚生労働省「令和6年度能力開発基本調査」(常用労働者30人以上の事業所が対象)によると、正社員または正社員以外に対して計画的なOJT(あらかじめ決めた計画に沿って行うOJT)を実施した事業所は64.7%でした1

しかも、正社員に対する実施率でみると、会社の規模によって差があります。従業員30〜49人の企業では46.0%であるのに対し、1,000人以上の企業では78.0%です1。会社が大きいほど「計画」を用意できていて、小さいほど現場任せになりやすい傾向が、数字にも表れています。

計画的なOJTを実施した事業所の割合(企業規模別)

計画的なOJTを実施している事業所のうち、対象として最も多いのは新入社員(正社員)で54.7%です1。新人育成そのものへの関心は低くないのに、計画を用意できている会社が規模によって偏っている、というのが実態です。

育成が進まない理由は「時間」と「人」

同じ調査では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は79.9%にのぼります1。その内訳(複数回答)で最も多いのは「指導する人材が不足している」59.5%、次いで「人材を育成しても辞めてしまう」54.7%、「人材育成を行う時間がない」47.4%でした1

人材育成に関する問題点の内訳

教える側に十分な人数や時間の余裕がないことが、育成が場当たり的になる背景にあります。先輩社員は自分の仕事をこなしながら新人を見ており、その日の忙しさによって教える内容や丁寧さが変わってしまうのは、無理からぬことでもあります。

育成の「仕組み」を持っている会社はまだ少ない

育成の方針や手順を文書にした「事業内職業能力開発計画」を作成している事業所は、「すべての事業所で作成している」13.9%と「一部の事業所で作成している」6.1%を合わせても、全体の2割程度にとどまります1。企業規模別に見ると、従業員30〜49人の企業では合わせて17.4%、1,000人以上の企業でも合わせて45.4%と、最も規模の大きい区分でも2分の1に届きません1

従業員1,000人以上の会社でさえ半数に満たないのですから1、中小企業が最初から立派な計画書を作ろうとする必要はありません。まず必要なのは、「入社してからの数週間から数か月で、誰が、何を、どの順番で教えるか」を一覧にした、簡単な文書です。

自社で教える、という前提に立つ

実施したOFF-JT(通常の業務を一時的に離れて行う教育訓練)の教育訓練機関を見ると、正社員向けで「自社」が75.2%、正社員以外向けで83.5%と、いずれも最も多い選択肢になっています1。育成の中心は、外部の研修サービスではなく自社の中にあります。

これは、新人育成の仕組みを作る作業を「まず社内でやってみる」という前提と相性がよいということでもあります。教える内容を洗い出し、順番を決め、誰が担当するかを決めるだけなら、追加の費用をかけずに始められます。

育成の仕組みを作るときにつまずきやすいところ

仕組みを作ろうとすると、最初から新人育成プログラム全体を体系化しようとして手が止まりがちです。厚生労働省の調査でも、育成の方法がわからないことを問題として挙げた事業所は9.9%あります1。まずは「入社1週目」「1か月目」「3か月目」など、時期ごとに教える内容を箇条書きにする程度から始め、実際に新人を教えながら直していく方が現実的です。

また、新人が早期に辞めてしまうことと育成の仕組みの有無を、そのまま結びつけて考えるのは避けたいところです。厚生労働省の別の調査では、令和4年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、高卒37.9%、大卒33.8%となっています2。これは育成の仕組みの有無を切り分けて調べたものではなく、離職の理由が育成だけにあるとは言えません。ただし、能力開発基本調査で「人材を育成しても辞めてしまう」を課題に挙げた事業所が54.7%あることも事実で1、育成の仕組みを整えることは、少なくとも「教えたつもりが伝わっていなかった」というすれ違いを減らすことにはつながります。

まとめと、明日できること

育成にかける時間を勤務時間の一部として扱うかどうかなど、労働時間や賃金に関わる部分を制度化する場合は、社会保険労務士など専門家に確認してから進めることをおすすめします。

  1. 新人が入社してからの最初の数か月で、誰が、何を、いつまでに教えるかを、1枚の一覧にする
  2. 今の育成を実際に担当している先輩社員に、今教えている内容を書き出してもらう
  3. 外部の研修サービスを探す前に、まず自社の中でその一覧を使ってみて、抜けているところを直す

出典

出典

本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。

  1. [1] 厚生労働省 令和6年度「能力開発基本調査」結果の概要(参考1) www.mhlw.go.jp ・2026年6月27日 公開 ・2026年9月12日 参照
  2. [2] 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」 www.mhlw.go.jp ・2025年10月24日 公開 ・2026年9月12日 参照

よくある質問

Q. 新人育成の仕組みは何から作ればいいですか

厚生労働省の調査では、育成の方針を文書にした事業内職業能力開発計画を作成している企業は全体の2割程度にとどまります。新人一人当たりに何を、いつまでに教えるかを1枚の一覧にまとめるところから始めると、担当者が変わっても内容がぶれにくくなります。

Q. OJTの内容が教える人によって変わるのはなぜですか

厚生労働省の調査では、人材育成に問題があるとする事業所のうち、指導する人材が不足しているが59.5%、人材育成を行う時間がないが47.4%を占めています。教える側に時間や人数の余裕がないと、その場の判断に頼りやすくなり、内容が担当者ごとに変わりやすくなります。

Q. 研修会社に頼まなくても新人育成の仕組みは作れますか

厚生労働省の調査では、実施したOFF-JTの教育訓練機関として自社を挙げた事業所が、正社員向けで75.2%と最も多くなっています。外部の研修サービスを使うかどうかにかかわらず、教える内容を自社の中で決めて共有する取組が中心になっています。

Q. 新人がすぐ辞めてしまうのは育成の仕組みがないからですか

厚生労働省の別の調査では、令和4年3月卒業者の就職後3年以内の離職率は高卒37.9%、大卒33.8%となっており、育成の仕組みの有無との関連を直接示すものではありません。ただし能力開発基本調査では、人材育成に問題があるとする事業所の54.7%が人材を育成しても辞めてしまうことを課題に挙げています。

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