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法務・税務

電子契約を始める前に知っておく法律と手順

・読了目安 約8分

監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣

この記事の要点

  • 契約は当事者の意思の合致で成立し、押印は特段の定めがある契約を除き法律上の必須要件ではない
  • 電子契約の効力の強さはサービスの本人確認の水準で変わるため、契約の重要性や金額に応じて選ぶ必要がある
  • 電子データのみでやり取りした契約書には印紙税がかからないが、締結後の紙の原本も別途交付すると、その紙には課税される
  • 電子契約で締結したデータは電子帳簿保存法上の電子取引データにあたり、改ざん防止と検索できる状態での保存が必要になる
オフィスの机に置かれたノートパソコンと、印鑑が置かれた契約書のファイル

取引先に契約書を2部印刷し、実印か角印を押して、返信用封筒を同封して郵送する。相手が押印して返送してくるまで数日から数週間待つ。そんな流れを、電子契約に切り替えたいと考えている経営者や総務担当は多いはずです。ただ「サービスを1つ導入すれば済む」という話ではなく、押印の代わりに何が効力を持つのか、印紙はどうなるのか、締結したデータはどう保存すればよいのかを先に知っておく必要があります。

この記事の結論

契約書への押印は、法律で特段の定めがある契約を除き、そもそも成立の要件ではありません1。電子契約に切り替える際に本当に考えるべきは、①契約の重要性・金額に応じて電子署名サービスの本人確認の水準を選ぶこと、②電子データのみで完結させれば印紙税はかからないこと、③締結後のデータは電子帳簿保存法上の電子取引データとして保存義務を負うこと、④公正証書が必要な契約など電子化できないものが残っていること、の4点です。

そもそも契約に押印は必要か

内閣府・法務省・経済産業省が公表した「押印についてのQ&A」では、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成やその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていないと説明されています1。つまり、押印をしなくても契約の効力そのものには影響が生じません。

では押印には何の意味があるのかというと、裁判になったときの証拠上の扱いです。民事訴訟法第228条第4項は、私文書に本人の署名または押印があれば真正に成立したものと推定すると定めており、本人の押印があれば「この契約書は本人が作成したものだ」と証明する負担が軽くなります1。逆に言えば、押印がなくても、相手方が契約書の成立を争わなければそもそも問題にならず、争われた場合でもやり取りの記録など他の証拠によって真正な成立を証明できる余地があります1

電子契約にも「効力の強さ」の違いがある

電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)は平成13年4月1日に施行されており、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書は、真正に成立したものと推定されます2。つまり紙の押印と同じように、電子署名にも証拠上の推定効があります。

ただし、クラウド型の電子契約サービス(利用者の指示に基づき、サービス提供事業者自身の署名鍵で暗号化等を行うタイプ)がこの推定効を得られるかどうかは一律ではありません。総務省・法務省・経済産業省(令和6年1月9日にデジタル庁・法務省が一部改定)のQ&Aによれば、こうしたサービスが電子署名法3条の電子署名に該当するには、①利用者とサービス提供事業者の間の認証プロセス、②サービス提供事業者内部の処理プロセス、の両方で「十分な水準の固有性」(本人でなければ行うことができないと言えること)が満たされている必要があり、どちらか一方だけでは不十分とされています3。①の例としては、登録メールアドレスとログインパスワードに加えてSMS等のワンタイムパスワードを使う2要素認証が挙げられていますが、2要素認証が必須というわけではなく、他の方法でもよいとされています3

さらに同Q&Aは、電子契約サービスの身元確認の水準や防御レベルは様々で、水準が低いサービスでは裁判で真正な成立の推定が得られない可能性があると指摘し、締結する契約の重要性や金額に応じて、推定が得られない場合に生じる損害等を考慮したうえでサービスを慎重に選ぶことが適当だとしています3。日常的な発注書のやり取りと、金額の大きい業務委託契約とで、同じ水準のサービスを使い続けてよいとは限らないということです。

なお、電子署名法3条の推定効はあくまで証明の負担を軽くする手段の1つであり、それが得られない場合でも、契約当事者間のやり取りの記録などを証拠として真正な成立を証明できる余地は残っています3

契約の成立を裁判で証明する手段の違い。押印がある紙の契約書は民事訴訟法228条4項、電子署名法3条の要件を満たす電子契約は電子署名法3条により、それぞれ真正な成立が推定される。どちらも満たさない場合はやり取りの記録などの証拠で証明する

印紙税はどうなるか

紙の契約書には収入印紙が必要になる場合がありますが、電子契約では原則としてかかりません。福岡国税局が平成20年10月24日に回答した文書回答事例では、注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信したケースについて、現物の交付がなされない以上、印紙税の課税文書を「作成」したことにはならず、印紙税の課税原因は発生しないとされています4

注意したいのは、電子メールで送信した後に、念のため紙の原本も別途相手方に持参・郵送するといった対応です。この場合はその紙の現物が課税文書の作成にあたり、印紙税が課されることになります4。電子契約のメリットを活かすなら、締結は電子データのみで完結させ、あとから紙の原本も渡すという二重対応は避ける必要があります。

締結した後のデータ保存を忘れない

紙の契約書を電子契約に切り替えると見落としやすいのが、締結後のデータ保存です。国税庁の一問一答(電子取引関係、令和7年6月)によれば、「電子取引」とは取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいい、契約書に通常記載される事項(取引情報)を電子メールやクラウドサービスでやり取りする場合はこれに該当します5。実際に同一問一答は、クラウドサービスで雇用契約書を取り交わした場合のデータも、電子取引データとして保存義務の対象になると説明しています5。雇用契約書に限らず、契約期間や金額など取引情報にあたる事項を含む契約書を電子的にやり取りすれば、同じ考え方が当てはまります。

保存にあたっては、次のいずれかの方法で改ざん防止を確保する必要があります5

  1. タイムスタンプが付与されたデータを受領する
  2. 速やかに(社内規程で定めた期間内に)タイムスタンプを付す
  3. データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム、または訂正削除ができないシステムを利用する
  4. 訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定・運用・備付ける

あわせて、検索できる状態での保存やディスプレイ等の備付けも必要です5。契約書ごとに違うサービスを使っていても、1つのシステムに集約する義務まではありませんが、必要なときに検索して速やかに出力できるように管理しておく必要があります5。請求書や領収書の電子取引データ保存の具体的な進め方は、請求書処理をAIで自動化する前に、まず確かめたい3つのことで詳しく扱っています。

導入時につまずきやすいところ

すべての契約が電子契約サービスだけで完結するわけではありません。たとえば借地借家法第23条第3項は、もっぱら事業用の建物所有を目的とした事業用定期借地権等の設定契約について、公正証書によらなければならないと定めています6。公正証書は公証人が作成する書面であり、通常の電子契約サービスの署名フローだけでは代替できません。取引の中に不動産の賃貸借や、公正証書が絡む契約が含まれていないかは、電子契約への切り替えを始める前に確認しておく必要があります。

また、電子契約の効力は「サービスを導入すれば自動的に強くなる」ものではありません。前述のとおり、推定効を得られるかどうかはサービスの認証方式と契約の重要性のバランスで判断すべき事柄であり、日常的な発注書と重要な業務委託契約を同じ感覚で扱わないよう注意が必要です3。個別の契約が公正証書などの特別な方式を必要とするかどうかや、自社の契約書のどこまでを電子化してよいかの最終的な判断は、弁護士や取引先の顧問弁護士に確認することをおすすめします。

電子契約を始める4つのステップ。契約の重要性を確認する、水準に合ったサービスを選ぶ、電子データのみで締結する、電子取引データとして保存する

まとめと、明日できること

  1. 自社で交わしている契約書のうち、電子化を検討している契約の重要性・金額を洗い出す
  2. 契約の重要性に応じて、本人確認の水準が異なる電子契約サービスを使い分けるかどうかを検討する
  3. 電子契約サービスで締結したデータを、改ざん防止と検索ができる状態で保存する運用(タイムスタンプ機能の利用や事務処理規程の整備)を決めておく

出典

出典

本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。

  1. [1] 内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」 www.moj.go.jp ・2020年6月19日 公開 ・2026年9月8日 参照
  2. [2] 法務省「電子署名法の概要と認定制度について」 www.moj.go.jp ・2026年9月8日 参照
  3. [3] 総務省・法務省・経済産業省(デジタル庁・法務省一部改定)「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」 www.moj.go.jp ・2024年1月9日 公開 ・2026年9月8日 参照
  4. [4] 福岡国税局 文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」 www.nta.go.jp ・2008年10月24日 公開 ・2026年9月8日 参照
  5. [5] 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月) www.nta.go.jp ・2026年9月8日 参照
  6. [6] e-Gov法令検索「借地借家法」第23条 laws.e-gov.go.jp ・2026年9月8日 参照

よくある質問

Q. 電子契約に判子(実印・角印)は必要ですか

法律上、契約は当事者の意思の合致で成立し、書面への押印は特段の定めがある場合を除き必要な要件ではありません。押印には裁判で文書の真正な成立を推定させる効果がありますが、電子署名法の要件を満たす電子署名でも同様の推定効を得られます。

Q. 電子契約サービスならどれを選んでも法的効力は同じですか

同じではありません。クラウド型のサービスが電子署名法3条の推定効を得られるかは、利用者側の本人確認の水準とサービス提供事業者内部の処理水準の両方で決まります。金額が大きい契約や重要な契約ほど、本人確認の水準が高いサービスを選ぶことが望ましいとされています。

Q. 電子契約に印紙は必要ですか

電子データのみでやり取りして締結した契約書には印紙税はかかりません。国税庁の文書回答事例で、電磁的記録を電子メールで送信しただけでは課税文書の作成にあたらないとされているためです。ただし締結後に紙の原本も別途相手に交付すると、その紙には印紙税が課されます。

Q. 電子契約で締結したデータは、いつまで、どうやって保存すればよいですか

電子契約サービスで締結した契約書データは電子帳簿保存法上の電子取引データにあたり、データのまま保存する必要があります。タイムスタンプの付与や訂正削除ができないシステムの利用、事務処理規程の備付けのいずれかで改ざん防止を確保したうえで、検索できる状態にしておく必要があります。

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