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業務改善

マニュアルが使われない理由と、属人化の棚卸しから始める方法

・読了目安 約7分

監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣

この記事の要点

  • 中小企業庁の2025年版白書では、業務の属人化・ブラックボックス化の防止に取り組んでいる中小企業は5〜6割にとどまっています
  • 2026年版白書では、多能工化に有効だった取組として「従業員スキルの可視化」が最も多く挙げられ、「業務マニュアルの作成・整備」がそれに次いでいます
  • 属人化から脱却した事業者は付加価値額の変化率が高い傾向がありますが、白書自身も一概には言えないとしています
  • 属人化した従業員が退職すると、ノウハウの喪失や業務停滞のリスクにつながることも白書は指摘しています
工場の作業台に置かれた紙のマニュアルと付箋のクローズアップ

「マニュアルを作ったのに、現場は結局、前からいる社員に聞いている」。備後地域の中小企業の経営者からよく聞く話です。せっかく時間をかけて作った手順書が本棚やフォルダの奥にしまわれ、実際の仕事は今まで通り特定の担当者の頭の中にある、という状態です。

この記事の結論

先に3点お伝えします。

  1. 中小企業庁の2025年版白書によれば、業務の属人化・ブラックボックス化の防止に取り組んでいる中小企業は5〜6割にとどまります1
  2. 2026年版白書では、多能工化を進める上で有効だった取組として「従業員スキルの可視化」が最も多く挙げられ、「業務マニュアルの作成・整備」がそれに次いでいます。 つまりマニュアル作成そのものより先に、誰が何をできるかを把握する動きが手前にあります2
  3. 属人化から脱却した事業者は、脱却していない事業者より付加価値額の変化率が高い傾向がありますが、白書自身も一概には言えないとしています。 効果を保証するものではなく、あくまで傾向です1

順に見ていきます。

マニュアルを作っても、なぜ使われないのか

「マニュアルを作ったが誰も使わない」という悩みの多くは、実は順番の問題です。多くの現場では、まず様式を整えたマニュアルを作ることから始め、その後で「この通りにやってください」と現場に渡します。しかし、その業務を実際にどう進めているかを、担当者以外の誰も正確に把握していないまま作られたマニュアルは、実務との間にずれが生まれやすくなります。

中小企業庁の2026年版白書は、多能工化・兼務化(一人の従業員が複数の業務をこなせるようにすること)を進める上で有効だった取組を尋ねた調査結果を紹介しています。回答が最も多かったのは「従業員スキルの可視化」で、次いで「業務マニュアルの作成・整備」、「研修・勉強会等の実施」の順でした2。この調査は複数回答形式のアンケートであり、白書自身も「取組を推進することが多能工化・兼務化には重要である可能性が示唆される」と述べるにとどめ、取組の順序までは明示していません2。ただ、どの業務のどの部分が特定の担当者にしか分からない状態になっているかを先に把握していなければ、マニュアルに何を書けばよいかも定まりません。「誰が何をできるか」を先に洗い出すことは、マニュアルの中身を実務に合わせるための土台になると考えられます。

属人化にどれだけの企業が向き合えているか

そもそも、業務の属人化に向き合えている中小企業はどれくらいあるのでしょうか。

中小企業庁の2025年版白書は、「従業員への経営理念・ビジョンの共有」「従業員への業績・財務内容・議事録など経営情報の共有」「業務の属人化・ブラックボックス化の防止」への取組状況を尋ねた調査を紹介しています。経営理念・ビジョンの共有には約7割の事業者が取り組んでいる一方、業務の属人化・ブラックボックス化の防止に取り組んでいる事業者は5〜6割にとどまっています1

同じ調査を従業員規模別に見ると、従業員規模が大きな事業者ほど、業務の属人化・ブラックボックス化の防止に取り組んでいる割合が高くなっています。白書は、従業員数が増えるほど経営者一人で目が届きにくくなることへの対応や、脱属人化による効率化、ノウハウ喪失・業務停滞といったリスクを防ぐために、こうした取組を進めている可能性がある、と分析しています1。裏を返せば、従業員数の少ない会社ほど、属人化への対応が後回しになりやすいということでもあります。

属人化から抜け出すと何が変わるのか

白書は、属人化・ブラックボックス化の防止への取組状況別に、付加価値額の変化率(中央値)も確認しています。取り組んでいる事業者は、取り組んでいない事業者に比べて付加価値額の変化率が高い傾向にありました1。ただし、これは相関関係を示したものであり、白書自身も「この調査結果から一概にはいえないが」と前置きした上で、業務の属人化から脱却することでボトルネック工程の削減や業務の標準化による効率アップにつながっている可能性がある、と述べるにとどめています1。属人化解消に取り組んだ場合の業績向上を保証するものではないという点は押さえておく必要があります。

白書はこの節のまとめとして、属人化からの脱却が期待できる効果を2つに整理しています。1つは、ボトルネック工程の削減や業務標準化による効率化です。もう1つは、業務を属人化させていた従業員が退職などでいなくなった場合の、ノウハウ喪失や業務停滞のリスク防止です1。「今は回っているから大丈夫」という状態が、特定の1人がいなくなった瞬間に崩れるリスクを、この2つ目の効果は指しています。

実際に属人化と向き合った企業の例

白書には、属人化と向き合った中小企業の事例も紹介されています。

千葉県千葉市の株式会社食研(食料品製造業、従業員323名)では、2021年に大手食品メーカーから転職して入社した新井裕社長が、生産部門を管掌した際に「大雑把な経営管理や作業の属人化が常態化している状況」に問題意識を抱きました。同社は業務の標準化に向けて独自マニュアルを策定し、"自分流"を徹底して排除して、全業務にルールを付し従業員に遵守させました。マニュアル整備はIT人材の育成や管理会計の教育と並行して進められた複数の取組の一つで、その結果、工場別・工程別・生産ライン別・製品別の生産データを基に、製造原価をリアルタイムで把握できる体制を構築するに至っています1

福井県あわら市の株式会社清風荘(宿泊業、従業員70名)は、温泉旅館を営む企業です。2023年に入社した伊藤将太取締役は、多能工化を進めるに当たり、属人的かつ口頭指示に頼りがちだった教育体制を改め、全ての業務に動画マニュアルを整備しました。新任者でも動画を見れば一人で対応できるほど具体的な内容にした結果、従業員70名は清掃・フロント・調理補助など全ての業務をこなせるようになりました2。この動画マニュアルの整備は、賃上げや中抜け休憩の廃止、清掃の内製化、省力化投資などと合わせて行われた複数の取組の一つであり、その後の営業利益率や初任給の上昇、採用実績の改善は、これら全体の成果として白書は紹介しています。動画マニュアル単独の効果として切り分けられているわけではありません2

導入時につまずきやすいところ

1つ目は、マニュアルの様式作りから始めてしまうことです。 立派なフォーマットを用意しても、そこに書く中身が実務とずれていれば使われません。まずは自社のどの業務が、誰にしか分からない状態になっているかを一つずつ洗い出すところから始める方が、後戻りが少なくなります。

2つ目は、属人化の解消を1人の担当者に丸投げしてしまうことです。 業務を洗い出す作業自体、その業務をよく知る本人の協力が欠かせません。株式会社食研の事例でも、業務標準化は経営者自身が旗を振って進められています1

3つ目は、効果を数字で決めつけてしまうことです。 属人化から脱却した事業者は付加価値額の変化率が高い傾向にありますが、白書自身が示す通り、これは相関であって、取り組んだ場合の業績向上を保証するものではありません1。過度な期待をせず、まずはリスクを減らす取組として捉える方が現実的です。

まとめと、明日できること

  1. 自社の業務のうち、特定の担当者にしかできないものを紙に書き出してみる。 マニュアルの様式を考えるのは、その後で構いません
  2. 書き出した業務のうち、その担当者が休んだり辞めたりしたら困る度合いが高いものから優先して手を付ける1
  3. マニュアル化と並行して、誰が何をできるかを一覧にする「スキルの可視化」も進める。 白書では、マニュアル整備より先にこちらの取組が挙げられています2

マニュアルは、作ること自体がゴールではありません。誰にしか分からない仕事がどこにあるかを先に把握しておくことが、後から作るマニュアルを実際に使われるものにする土台になります。

出典

出典

本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。

  1. [1] 中小企業庁 2025年版中小企業白書 第2部第1章第2節「経営の透明性・開放性」 www.chusho.meti.go.jp ・2025年4月25日 公開 ・2026年9月9日 参照
  2. [2] 中小企業庁 2026年版中小企業白書 第2部第3章第2節「人材活用の取組」 www.chusho.meti.go.jp ・2026年4月24日 公開 ・2026年9月9日 参照

よくある質問

Q. マニュアルを作る前に何をすればいいですか

まず、どの業務が特定の担当者しかできない状態になっているかを洗い出すことから始めます。中小企業庁の白書では、多能工化に有効だった取組として従業員スキルの可視化が最も多く挙げられており、業務マニュアルの作成・整備はそれに次ぐ取組として挙げられています。

Q. 属人化をなくすと業績が上がりますか

中小企業庁の白書では、業務の属人化・ブラックボックス化の防止に取り組んでいる事業者は、取り組んでいない事業者より付加価値額の変化率が高い傾向が見られます。ただし白書自身もこの結果から一概には言えないとしており、取り組んだ場合の業績向上を保証するものではありません。

Q. 属人化を放置すると何が問題になりますか

中小企業庁の白書は、業務を属人化した従業員が退職などでいなくなった場合に、ノウハウの喪失や業務停滞のリスクにつながる可能性を指摘しています。特定の担当者しか分からない業務があるほど、そのリスクは大きくなります。

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