社員が辞める前に、経営者が気づけるサイン
・読了目安 約6分
監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣
この記事の要点
- 従業員の変化は退職意思を断定する材料ではなく、日々の違いに気づくための手がかりです
- 心の不調を示す例として、勤怠・能率・ミス、言動・態度の変化が挙げられています
- 変化に気づいた管理監督者は、診断せずに話を聴き、必要に応じて相談先へ橋渡しします
- 既存の接点を使った短時間の1対1の対話は、話を聴く機会をつくる一案です
「最近、あの人は少し様子が違うかもしれない」と感じても、忙しい日々のなかでは、その感覚を後回しにしがちです。勤怠や仕事ぶりに変化があれば、経営者としては退職のことまで考えるかもしれません。
ただ、目に見える変化だけで退職意思を読み取ることはできません。今回確認した公的資料にも、特定の変化が退職を予測するという根拠はありません。変化は、本人の状態や職場で起きていることを決めつけずに確かめる入り口です。
この記事では、心の不調に気づくための例として公的資料が挙げている変化と、気づいた後に話を聴く際の視点を整理します。退職を防ぐための手法ではなく、日々の様子の違いを見過ごさず、必要なら相談先へつなぐための内容です。
この記事の結論
先にお伝えしたいのは、変化を「離職の前兆」と決めつけないことです。厚生労働省の管理監督者向け資料は、勤怠や能率、ミス、言動や態度の変化を、心の不調に気づくための例として示しています。これは診断の基準ではありません1。
経営者や管理監督者に求められるのは、日頃の様子を把握し、いつもと異なる変化に気づくことです。変化があったときは、必要に応じて個別に話を聴きます。本人を診断するのではなく、必要なら産業保健スタッフや専門家へ橋渡しする立場だと捉えると、次の行動を選びやすくなります1。
まず、退職の予測に使わない
社員の変化を見つけたとき、「辞めたいのではないか」と考えること自体は自然です。しかし、その見立てを本人への接し方の前提にしてしまうと、話を聴く前に答えを決めることになります。
厚生労働省の資料が扱うのは、心の不調に早く気づくためのサインです。個別の変化から心の病気を診断するものではなく、管理監督者が早期に気づくための例として示されています1。同じ資料は、仕事の能率低下やミスは多くの病気で現れ得るとも説明しています1。
そのため、勤怠の変化や表情の変化を見ても、「退職する」「病気である」と決めつけないことが大切です。日頃と比べて何が変わったのかを把握し、本人が話せる状態かどうかを確かめる視点にとどめます。
日々の様子で見える、二つの変化
心の不調に気づくための例は、仕事面と、言動・態度面に分けて考えると整理しやすくなります。ここで挙げるのは、退職のサインではなく、日頃との違いに気づくための例です。
勤怠や仕事ぶりの変化
厚生労働省の資料は、仕事面の変化として、無断欠勤・遅刻・早退・病欠が多くなることを挙げています。業務の能率低下、些細なミスや事故の増加、物忘れや計算ミス、仕事への積極性の低下も例示されています。特に理由がない職場転換や退職の希望も、気づくための例の一つです1。
こうした項目を並べて、社員を判定するための表にする必要はありません。日頃の労働時間、業務量や内容を把握しているからこそ、変化があったときに話を聴くきっかけにできます1。
言動や態度の変化
同じ資料は、仕事中にそわそわして落ち着かないこと、身だしなみや態度がだらしなくなること、動作が鈍くなることも例として挙げています。表情が乏しくなる、周囲に無関心になる、憂うつそうで活気がないといった変化も、心の不調の文脈で示されています1。
一つの変化を見て理由を決めるのではなく、仕事面の変化と併せて日頃との違いを捉えます。経営者が感じた違和感は、本人の事情を聞く前の仮説にすぎません。その仮説を確定させるのではなく、対話の準備に使います。
図の流れも、心の不調に気づいた管理監督者の初期対応を整理したものです。変化の理由を図だけで判断するものではありません1。
気づいた後は、まず話を聴く
変化に気づいたとき、厚生労働省の資料は必要に応じた個別面談で話を聴き、情報を集めることを示しています。事情が分からない段階では、安易な助言や励ましが不適切となることがあるため、本人の悩みや訴えに耳を傾ける姿勢が求められます1。
話を聴く場面で、経営者が診断役になる必要はありません。管理監督者の役割は、サインに気づき、早期に相談対応を行い、産業保健スタッフや専門家へ橋渡しすることです1。本人に理由を説明させることより、話せる状況をつくることを優先します。
中小企業では、新しい面談制度を用意しなくても、既にある接点を使う方法があります。J-Net21は、給与明細の交付、月次の業務報告、定例ミーティングなどで、短時間の対話の機会を設ける方法を案内しています2。
周囲から見られにくい会議室などで、1対1・5分程度の面談を行うことも一案です。最初は「最近どうか」「困っていることはあるか」といった声掛けから始める方法が示されています2。面談の長さや問い掛けを型にはめるより、本人が話せる場所を選ぶことが先です。
一人で抱えず、相談先へつなぐ
厚生労働省の指針は、管理監督者が日常的な把握を基に、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応を行う「ラインによるケア」を示しています。事業者には、管理監督者への教育研修や情報提供も求めています3。
常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場では、事業場内の産業保健スタッフを確保できない場合が多いとされています。その場合は、地域産業保健センター等の事業場外資源を積極的に活用することが望ましいとされています3。
社員の変化が気になるときに、経営者や上司だけで抱え込む必要はありません。話を聴いたうえで対応に迷う場合は、産業保健スタッフや専門家、地域産業保健センターなどの専門窓口に相談してください。心の不調や働き方の問題を、社内だけで診断・判断しようとしないことが大切です13。
まとめと、明日できること
社員の変化は、退職を予測する材料ではありません。日々の様子を知っているからこそ、いつもと違う点に気づけます。気づいた後は決めつけずに話を聴き、必要なら相談先へつなぐ。この順序を、経営者や管理監督者が共有しておくことが出発点になります。
| 何を | どのツールで | 所要時間の目安 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 給与明細の交付や月次の業務報告、定例ミーティングで「最近どうか」と声を掛ける | 既存の接点 | 日常業務の中で | 2 |
| 周囲から見られにくい場所で、1対1・5分程度の対話の機会をつくる | 個別面談 | 短時間 | 2 |
| 対応に迷うときは、相談先へ橋渡しする | 地域産業保健センター等の事業場外資源 | 必要に応じて | 13 |
ここまでは、既にある接点を使って自分で始められます。継続した相談対応や職場環境の改善まで考えるときは、産業保健スタッフや地域産業保健センターなどの専門窓口へ相談してください。
出典
出典
本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。
- [1] 厚生労働省 こころの耳「管理監督者向けメンタルヘルス研修マニュアル」 kokoro.mhlw.go.jp ・2026年9月18日 参照
- [2] 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「賃上げしても従業員の定着率が上がりません。離職防止のために何に取り組めばよいですか?」 j-net21.smrj.go.jp ・2026年8月3日 公開 ・2026年9月18日 参照
- [3] 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針について」 www.mhlw.go.jp ・2006年3月31日 公開 ・2026年9月18日 参照
よくある質問
Q. 社員の変化は離職の前兆と考えるべきですか
そう考えるべきとは限りません。今回確認した資料は、心の不調に気づくための例を示すもので、個別の変化から退職意思や病気を断定する根拠にはなりません。日頃との違いに気づいたら、決めつけずに話を聴くことが出発点です。
Q. 社員の変化に気づいたとき、経営者は何をすればよいですか
必要に応じて個別に話を聴き、本人の悩みや訴えに耳を傾けます。事情が分からない段階では、安易な助言や励ましが不適切となることがあります。管理監督者は診断をせず、必要に応じて相談先へ橋渡しします。
Q. 短時間の面談でも話を聴く機会になりますか
J-Net21は、既存の接点を使い、周囲から見られにくい場所で1対1・5分程度の面談を行うことを一案として示しています。最初は最近どうか、困っていることはあるかという声掛けから始める方法があります。
この記事の監修者
末吉 孝臣
代表取締役・株式会社Omit
20年ほど Web や業務システムの開発と企業の DX 支援に携わり、現在は広島県福山市で株式会社Omit を経営。専任の IT 担当者がいない中小企業を中心に、現場の仕事を見ながら AI 導入や業務改善を現実的な形に落とし込む仕事をしています。
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