日報が「書くだけ」で終わる理由と、経営者が最初に変えられること
・読了目安 約6分
監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣
この記事の要点
- 日報の課題を感じている管理職の56.6%が、提出自体が目的化して形骸化していると回答した調査があります
- J-Net21は日報が形骸化した状態を「部下は漫然と書き、上司は流し読みする」と描写しています
- 日報を使えるツールに変える最初の一歩は、書式の変更ではなく、上司がフィードバックを欠かさず返すことです
- 老舗飲食企業の矢場とんでは、社長が日報への返信に1時間程度をかけて向き合っています
「日報は毎日出させているが、正直、目を通せていない週もある」。備後地域の中小企業の経営者から、こう打ち明けられることがあります。従業員側に聞いても「何のために書いているのか分からないまま、とりあえず埋めて出している」という声が返ってくることが少なくありません。日報という仕組み自体はほとんどの会社にあるのに、なぜこうも「書くだけ」で終わってしまうのでしょうか。
この記事の結論
先に3点お伝えします。
- 日報業務に課題を感じている管理職を対象にした調査では、「提出自体が目的となっており、形骸化している」という回答が56.6%で最多でした1。
- 中小企業基盤整備機構のJ-Net21は、日報が形骸化した状態を「部下は漫然と書き続け、上司も何となく流し読みしている」状態と説明しています。 書く側と読む側の双方が、目的を意識しないまま作業をこなしている状態です2
- 日報を使えるツールに変える最初の一歩は、書式を変えることではなく、上司が提出された日報にフィードバックを欠かさず返すことです。 効果が出るまで時間がかかることも、あわせて覚悟しておく必要があります2
順に見ていきます。
日報の形骸化は、どれくらい起きているのか
日報運用がある企業に勤め、部下を持つ営業部の課長・マネージャー111名を対象にした調査では、会社で使われている日報のレベルを尋ねたところ、「活動報告レベル」と回答した割合が38.7%、「上司への報告・連絡・相談レベル」と回答した割合が24.3%でした1。
この2つのレベルなどに該当すると回答した76名にさらに課題を尋ねたところ、最も多かった回答が「日報提出自体が目的となっており、形骸化している」で56.6%でした。次いで「日報記載時間が業務時間を圧迫」が26.3%、「提出がまばらでルール不遵守」が21.1%と続きます1。
この調査の対象は従業員100名以上規模の企業に勤める営業部の管理職であり、備後地域に多い従業員10〜100名規模の会社とは前提が異なります。ただ、日報の形骸化を課題として挙げる声が半数を超えている点は、規模の大小を問わず起こりうる現象だと考える手がかりになります。
なぜ「書くだけ」になってしまうのか
J-Net21は、日報が形骸化した状態を「報告する部下は漫然と書き続けていて、受け取る上司も何となく流し読みしている」と表現しています。そのうえで、日報の本来の狙いを、上司にとっては現場の進捗を確認したり部下の成長に生かしたりすること、部下にとっては自己の振り返りや行うべき業務の確認に役立てることだと整理しています2。
この整理を裏返すと、形骸化とは「上司が現場の確認にも部下育成にも使っておらず、部下も振り返りや業務確認の手段として使えていない」状態だと言えます。目的が共有されないまま、提出することだけが習慣として残ってしまうと、書く側は何を書けばいいか分からず当たり障りのない活動報告に落ち着き、読む側も反応する理由がないまま流し読みするようになります。これは、マニュアルが作られても現場で使われなくなる構図と似ていて、様式や手段よりも先に、何のためにやるのかが共有されているかどうかが分かれ目になります。
経営者・上司が最初に変えられること
J-Net21は、日報を「使えるツール」にするための3つのポイントを挙げています2。
1つ目は、日報の目的や書き方を丁寧に説明することです。 その日の業務を時系列で5W1Hを基本に記載し、気づきや反省点も適宜書き込むよう伝えます。ただし、最初から書く項目や分量を欲張ると、かえって日報を書きたがらなくなるため、注意が必要だとされています。
2つ目は、フィードバックを欠かさず実施することです。 上司は提出された日報をきちんと読み込み、部下へその都度反応を返します。「読んでもらえている」「自分の仕事ぶりを見てくれている」と感じるだけでも、部下のモチベーション向上につながる一方、無視されたと感じればやる気を失ってしまいます。日報を定着させることが目的であれば、「ダメ出し」は控え、まずは相手の良いところを見つけてコメントする姿勢が必要だとされています。
3つ目は、効果が出るまで長期戦を覚悟することです。 現場から上がってくる小さな業務改善のアイデアは、実行できるものから採用して全社で共有します。一方で、経営方針に関わるような重大な気づきは短期間では得られないため、長期的な運用と信頼関係の醸成が欠かせないとされています。
3つのうち、書式や量の話は1つ目の一部にすぎません。中心にあるのは、上司が読んで反応するという、地味だが続けやすい行動です。
実際に日報を活かしている企業の例
J-Net21は、日報を上司と部下のコミュニケーションツールとして定着させた企業の事例として、愛知県の老舗飲食企業である株式会社矢場とんを紹介しています2。
創業3代目にあたる鈴木拓将社長は、1998年に家業の店に入った際、先代の下で全店舗を取りまとめる役割を担い、店長から売り上げや来客数、主力メニューの出数をメールで送ってもらう日報を取り入れました。当初の狙いは店舗の数字を管理することと、店長にパソコンのスキルを身につけてもらうことだったといいます。
運用を続けるうちに、店長が休んだ際に代理で書いていたほかの従業員も含め、自ら進んで仕事の悩みや取り組みを書く人が増えていきました。鈴木社長は「勇気を出して書いてくれた従業員に対して、自分が全力で応える」ことを強く意識し、返信を書くのに1時間程度をかけているといいます。これは矢場とんという一社の取組であり、同じだけの時間をかけることを勧める趣旨ではありませんが、フィードバックにどれだけ本気で向き合うかが日報の定着を左右することを示す例だと言えます。
導入時につまずきやすいところ
1つ目は、最初から書く項目や分量を増やしすぎることです。 丁寧な日報にしようとして項目を欲張ると、書く負担が増え、かえって形だけの提出に逆戻りしやすくなります。
2つ目は、フィードバックを後回しにしてしまうことです。 日常業務に追われていると、日報への返信は最も後回しにされやすい作業です。しかし、フィードバックが無いままでは、部下が日報を書く意味を見出せなくなります。
3つ目は、すぐに効果を求めすぎることです。 経営方針に関わるような気づきは短期間では出てきません。日報を通じたコミュニケーションは、信頼関係が育つまで続けて初めて意味を持つ取組だと捉えておく必要があります。
まとめと、明日できること
- まず、今出ている日報に目を通し、一つでもいいので一言コメントを返す。 書式を見直すのは、その後で構いません
- 日報の目的を、部下に改めて言葉で伝える。 上司にとっての目的(現場の進捗確認・部下育成)と、部下にとっての目的(振り返り・業務確認)の両方を伝えます2
- 効果をすぐに求めず、フィードバックを続ける期間を決めておく。 経営方針に関わるような気づきが出てくるまでには時間がかかります2
日報が「書くだけ」になっているとしたら、直すべきは書式ではなく、読んで反応する側の習慣かもしれません。
出典
出典
本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。
- [1] 株式会社給与アップ研究所 プレスリリース「営業日報、約4割が『活動報告レベル』の実態 日報業務の課題、『提出自体が目的』、『形骸化』の声多数」 prtimes.jp ・2022年12月1日 公開 ・2026年9月14日 参照
- [2] 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21 経営ハンドブック「日報を上司と部下のコミュニケーションツールに昇華させる」 j-net21.smrj.go.jp ・2026年9月14日 参照
よくある質問
Q. 日報はなぜ形骸化するのですか
中小企業基盤整備機構のJ-Net21は、日報が形骸化した状態を、部下は漫然と書き続け、上司も何となく流し読みしている状態だと説明しています。日報の目的が上司・部下の双方に共有されないまま、提出することだけが習慣になってしまうことが背景にあります。
Q. 日報のフォーマットを変えれば形骸化は防げますか
J-Net21が挙げる3つのポイントのうち、書き方の説明は含まれますが、中心は上司がフィードバックを欠かさず返すことと、効果が出るまで長期戦を覚悟することです。フォーマットだけを変えても、上司が読んで反応する運用がなければ、書く側の姿勢は変わりにくいと考えられます。
Q. 日報へのフィードバックは、どのくらい手間をかければいいですか
決まった目安が公的に示されているわけではありません。J-Net21が紹介する事例では、矢場とんの社長が日報への返信に1時間程度をかけていますが、これは1社の取組であり、全ての会社に当てはまる基準ではありません。まずは全ての日報に一言でも反応を返すところから始めることが考えられます。
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