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人事・労務

評価の材料を、上司の記憶ではなく日々の記録から集める方法

・読了目安 約9分

監修: 株式会社Omit 代表取締役 末吉 孝臣

この記事の要点

  • 評価の材料は上司の記憶ではなく期中の記録から集めます。行動の記憶は時間とともに薄れ、評価期日に近い行動や主観に偏りかねないためです
  • 記録の置き場は新しい様式ではなく、すでにある日報とチャットです。具体的な行動・その状況・生じた効果の3点がそろう記述だけを材料にします
  • 評価の時期には、氏名を伏せた日報を無料プランのあるChatGPTなどの対話AIに読ませ、具体的な行動が書かれた記述だけを日付順に抜き出させます
  • 面談では抜き出した行動例と判断理由を示し、本人の記憶と突き合わせます。厚生労働省の評価シートの方法も、行動例と理由の明示を案内しています
日本の中小企業の事務所の机。日報を綴じたファイルと、チャットの一覧が表示されたノートパソコン、手元に付箋とペン。人物の顔は写さない

「あの人はよくやってくれている」。評価の時期になると、上司の頭にはこういう印象が先に浮かびます。ところが評価シートを前に「具体的に何をしたのか」を書こうとすると、思い出せるのは先月の出来事ばかりです。面談で本人に伝えても、「それは言っていません」「そのときは別の事情がありました」と食い違う。この記事では、評価の材料をどこから、どう集めるかの手順に絞って書きます。印象で評価が決まってしまう構造そのものは、評価が「上司の印象」で決まる会社が、最初にやめられることに譲ります。

この記事の結論

先に3点お伝えします。

  1. 評価の材料は、上司の記憶ではなく、期中に残した記録から集めます。 内閣人事局・人事院の評価者向けガイドは、行動の記憶は時間とともに鮮明でなくなると書いています。評価期日に近い時期の行動だけで評価したり、主観や推測で評価したりしかねないため、記録に留めることを勧めています1。
  2. 記録の置き場は、すでにある日報とチャットです。 新しい様式を作る前に、日々書かれている文章の中から「具体的な行動・その状況・生じた効果」の3点がそろう記述を拾います2。
  3. 評価の時期に、記録の束を対話AIに読ませて、具体的な行動が書かれた記述だけを抜き出させます。 抜き出した一覧を、面談で本人と突き合わせる材料の下書きにします345。

私の見方: 最初は範囲の狭い仕事から始めた方が、成功しやすいと思っています。

なぜ記憶に頼ると、材料が偏るのか

中小企業庁の2025年版中小企業白書によると、人事評価制度を設けている事業者は全体の約4割で、従業員30名超では過半数です6。設けていない理由で最も多いのは、いずれの規模でも「経営者が全従業員の状況を把握している」でした6。白書は、従業員が増えるほど経営者が全員の実績や勤務態度を詳細に把握することは困難になると述べています6。

把握しているつもりの中身が、記憶です。内閣人事局・人事院の評価者向けガイドは、国家公務員の人事評価を対象にした資料です。そこには、評価の材料となる行動の記憶は時間の経過とともに鮮明でなくなると書かれています1。その結果、評価期日に近い時期の行動だけで部下を評価したり、事実ではなく主観や推測で評価したりしかねない、と続けています1。同じガイドは、「几帳面だから仕事は正確だ」のように性格に引きずられた評価が公正性や納得性を損なう例も挙げています1。

労働政策研究・研修機構の雑誌に掲載された論文も、同じ問題を指摘しています。評価者自身の基準に任せる評価では、同じ相手でも評価者によって評価がばらつくというものです2。上司が悪いのではありません。記憶という材料そのものが、評価の時期に近い出来事へ偏るのです1。

材料は、すでにある日報とチャットの中にある

では、記録はどこにあるでしょうか。新しい様式を作る前に、日々書かれている文章を見てください。日報、業務チャット、面談のメモです。

中小企業基盤整備機構のJ-Net21は、日報の狙いを2つの側から整理しています。上司にとっては現場の進捗を確認し部下の成長に生かすこと、部下にとっては自己の振り返りと業務の確認です7。書き方は、その日の業務を時系列で5W1Hを基本に記し、気づきや反省点も書き込む形です7。この形で書かれた日報には、「いつ・誰に・何を・どうした」が残っています。評価の材料に要るのは、まさにこれです。

ただし、日報が「提出すること」だけで回っている会社では、材料になる記述は少ないでしょう。その理由と直し方は日報が「書くだけ」で終わる理由と、経営者が最初に変えられることで扱っています。ここでは、材料として使える記述の条件を1つだけ決めます。

「具体的な行動」「その状況」「生じた効果」の3点がそろっていること。 論文は、フィードバックで行動を記述するときは、その行動が起きた状況と、生み出した効果を併せて具体的に書く必要があるとしています2。「頑張った」は材料になりません。例えば「納期の前日に仕様の食い違いに気づき、取引先に確認してから出荷した」のような記述なら材料になります。

集め方の手順(期中・評価前・面談)

評価の材料を集める3段階。期中は日報とチャットから行動・状況・効果のそろった記述に印を付ける。評価前は記録の束を対話AIに読ませて具体的な行動の記述だけを抜き出させ、氏名を伏せて上司が確認する。面談では行動例と判断理由を示し本人と突き合わせる

期中: 週に1度、印を付ける

評価者向けガイドは、評価期間中は日々の業務管理を通じて行動を観察し、期末の評価に向けた事実の収集と記録を行うよう案内しています1。日報やチャットは、すでに本人が書いた記録です。上司がすることは、週に1度読み返し、3点がそろった記述に印を付けるか、1行で書き写すことです。全員分でなくてよいので、評価項目を1つ決め、その項目に関わる記述だけを拾います。

評価前: 対話AIに、具体的な行動の記述だけを抜き出させる

評価の時期には、印を付けた記録と、付け損ねた期間の日報がまとめて手元にあります。この束を読み直す時間が取れないのが、上司の実情でしょう。ここで対話AIを使います。ChatGPT・Claude・Google Geminiはいずれも無料プランがあり、長い文章を読ませて要点を出す用途に使えます345。

頼み方の例はこうです。「次の日報から、具体的な行動と、その状況、生じた効果が書かれている記述だけを抜き出して、日付順に一覧にして。感想や『頑張った』のような評価語だけの行は除いて」。返ってきた一覧は、あくまで下書きです。上司が元の日報と照らし、抜けや取り違えを直します。

AI はかなり便利になりましたが、間違えることもありますし、会社ごとのルールや例外まですべて理解してくれるわけではありません。

守ってほしいことが1つあります。日報には社員の名前、取引先名、金額が書かれています。貼る前に氏名や取引先名を伏せ、使うサービスの利用規約とプライバシーポリシーを先に確認してください。個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含む文章を生成AIに入力する場合の注意点を示しています。利用目的の範囲内であることと、提供事業者がその情報を機械学習に使わないことを確認する、という2点です8。考え方は生成AIに何を入力していいか、中小企業が守るべき情報の扱い方にまとめています。

面談: 行動例と判断理由を示し、本人と突き合わせる

厚生労働省の職業能力評価シートの評価方法では、自己評価と上司評価が異なる項目について、上司が具体的な行動例を示しながら判断理由を明示し、フィードバック面談で認識を共有するよう案内しています9。必要なら上司評価を修正するとも書かれています9。

ここで、抜き出した一覧が効きます。「何月何日の日報にこう書いてある」と日付付きで示せれば、「言った・言わない」で止まりにくくなります。本人の側も、自分が書いた記録なので、反論の材料が同じ土俵にあります。評価者向けガイドも、業務の状況について本人と認識を共有することが評価結果の納得感につながるとしています1。

現場で見てきたこと

対話AIに任せる範囲を、記述の抜き出しに絞ったのには理由があります。

私が関わった会社では、AI エージェントの話を聞いて、いきなり業務を全部自動化したくなる場面がありました。ただ実際には、例外処理が多かったり、元になるデータが整理されていなかったりして、思ったほど簡単にはいきませんでした。「問い合わせへの回答」「報告書の下書き」「社内資料を探す」といった範囲の狭い仕事から始めた方が、うまくいきやすいと感じています。

評価そのものをAIに決めさせるのではなく、材料の下書きまでにとどめる線引きです。

つまずきやすいところ

1つ目は、評価の直前にだけ記録を探すことです。 期中に印を付けていないと、束を読み直す時間が取れず、結局は記憶に戻ります。週に1度、1項目でよいので続けてください。

2つ目は、AIの一覧をそのまま評価にすることです。 抜き出しは下書きです。元の日報と照らし、本人の記述と上司の見立てが違う点を、そのまま面談の議題にします。

3つ目は、感想の行まで材料に数えることです。 「頑張った」「大変だった」は3点がそろっていません。材料の条件を上司と本人で共有しておくと、日報の書き方も変わっていきます。

評価の結果を賃金や処遇に結びつける部分は労務の扱いになります。社会保険労務士など専門家に確認してから進めてください。

まとめと、明日できること

何を どのツールで 所要時間の目安 出典
評価項目を1つ選び、直近の日報から「行動・状況・効果」がそろった記述に印を付ける 今使っている日報とチャット(新しいツールは要らない) すぐ 12
印を付けた日報を氏名を伏せて貼り、「具体的な行動が書かれた記述だけを日付順に一覧にして」と頼む ChatGPT・Claude・Google Gemini(いずれも無料プランあり)。利用規約を先に確認 すぐ 8345
一覧を元の日報と照らして直し、自己評価と違う項目の行動例と判断理由を書く 今使っている評価シートのコメント欄 半日 9
面談で日付付きの行動例を示し、本人の記憶と突き合わせる 今使っている面談の場 すぐ 9

ここまでは、今ある日報と無料の対話AIでできます。日報を書く側が続けたくなる仕組みや、集めた材料を評価シートまでつなぐ仕組みを作るなら、この記事の下にある相談窓口から声をかけてください。

出典

  1. 内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」(2022.06 ver.)(2022年6月1日 公開)(2026年9月25日 参照) ↩ ↩ ↩ ↩ ↩ ↩ ↩ ↩

  2. 独立行政法人労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』No.617 古川久敬「人事評価の運用の最適化によるパフォーマンス・マネジメント」(2011年12月1日 公開)(2026年9月25日 参照) ↩ ↩ ↩ ↩

  3. ChatGPT 公式サイト(Aisurumon 外部ツールカタログ chatgpt)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩

  4. Claude 公式サイト(Aisurumon 外部ツールカタログ claude)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩

  5. Google Gemini 公式サイト(Aisurumon 外部ツールカタログ google-gemini)(2026年9月3日 参照) ↩ ↩ ↩

  6. 中小企業庁 2025年版中小企業白書 第2部第1章第4節「人材戦略」(2025年4月25日 公開)(2026年9月25日 参照) ↩ ↩ ↩

  7. 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21 経営ハンドブック「日報を上司と部下のコミュニケーションツールに昇華させる」(2026年9月25日 参照) ↩ ↩

  8. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(別添1)(2023年6月2日 公開)(2026年9月25日 参照) ↩ ↩

  9. 厚生労働省「評価の方法について」(職業能力評価シート)(2026年9月25日 参照) ↩ ↩ ↩ ↩

出典

本文中の番号([1] など)は、下記の出典に対応しています。

  1. [1] 内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」(2022.06 ver.) www.jinji.go.jp ・2022年6月1日 公開 ・2026年9月25日 参照
  2. [2] 独立行政法人労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』No.617 古川久敬「人事評価の運用の最適化によるパフォーマンス・マネジメント」 www.jil.go.jp ・2011年12月1日 公開 ・2026年9月25日 参照
  3. [3] 厚生労働省「評価の方法について」(職業能力評価シート) www.mhlw.go.jp ・2026年9月25日 参照
  4. [4] 中小企業庁 2025年版中小企業白書 第2部第1章第4節「人材戦略」 www.chusho.meti.go.jp ・2025年4月25日 公開 ・2026年9月25日 参照
  5. [5] 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21 経営ハンドブック「日報を上司と部下のコミュニケーションツールに昇華させる」 j-net21.smrj.go.jp ・2026年9月25日 参照
  6. [6] 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(別添1) www.ppc.go.jp ・2023年6月2日 公開 ・2026年9月25日 参照
  7. [7] ChatGPT 公式サイト(Aisurumon 外部ツールカタログ chatgpt) chatgpt.com ・2026年9月3日 参照
  8. [8] Claude 公式サイト(Aisurumon 外部ツールカタログ claude) claude.com ・2026年9月3日 参照
  9. [9] Google Gemini 公式サイト(Aisurumon 外部ツールカタログ google-gemini) gemini.google.com ・2026年9月3日 参照

よくある質問

Q. 人事評価の材料は、どこから集めればいいですか

新しい様式を作る前に、すでにある日報、業務チャット、面談のメモから集めます。材料になるのは、具体的な行動と、その状況と、生じた効果の3点がそろっている記述です。国家公務員の人事評価を対象にした資料ですが、内閣人事局・人事院の評価者向けガイドも、行動の記憶は時間とともに鮮明でなくなるため、記録に留めておくことが有益だとしています。

Q. 日報を ChatGPT などの対話AIに読ませて評価に使っても大丈夫ですか

使い方を、具体的な行動が書かれた記述の抜き出しに絞れば、無料プランのあるChatGPT・Claude・Google Geminiで試せます。ただし社員の名前や取引先名は伏せ、使うサービスの利用規約とプライバシーポリシーを先に確認してください。個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含む文章を入力する場合、利用目的の範囲内であることと、提供事業者が機械学習に使わないことの確認を求めています。抜き出した一覧は下書きであり、元の日報と照らして上司が直します。

Q. 評価面談で「言った・言わない」にならないためには、何を用意すればいいですか

自己評価と上司評価が異なる項目について、日付付きの具体的な行動例と、そう判断した理由を用意します。厚生労働省の職業能力評価シートの評価方法は、評価が異なる項目では上司が具体的な行動例を示しながら判断理由を明示し、フィードバック面談で認識を共有し、必要なら上司評価を修正するよう案内しています。

この記事の監修者

末吉 孝臣

代表取締役・株式会社Omit

20年ほど Web や業務システムの開発と企業の DX 支援に携わり、現在は広島県福山市で株式会社Omit を経営。専任の IT 担当者がいない中小企業を中心に、現場の仕事を見ながら AI 導入や業務改善を現実的な形に落とし込む仕事をしています。

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